【手の甲にキス】
どれほどの愛の言葉をボクが口にしても、君が、同じ言葉を返してくれることはない。
ほんのりと首筋まで染めながら、少し俯いて、困ったような表情で、「うん」とか、「ああ」とか、稀に、「俺も」なんて言ってくれればそれだけでボクは嬉しくなってしまう。
我ながら喜びのハードルが低いと思うよ。君に関してはね。
いつも何かを探している君に、何かを差し出すのはいつもボクであれなんて、そんなふうに始まった関係だから、そう、ボクは、君には何も求めないことを自分に課していた。
そうさ、見返りがなければ愛せないなんて、そんなの本物じゃないなんて、ボクはとんだロマンティストだ。
だから、君がくれる思いがけないものが、どれほどボクを喜ばせているか。きっと君には分からないだろう。
「ねえ、コッシー、ボクは、本当に、君が好きだよ」
囁けば、ほら、また困った顔をする。
その顔が、ボクは好きだ。
試合の後、君と一緒に部屋へ帰って、今日もお疲れ様なんて互いにねぎらい合って、それから勝利を祝して小さく乾杯をした。
「あー、今日もボクはカッコ良かったね!」
勝利を揺るぎないものにした2得点目は自分でも惚れ惚れするくらい美しいFKだった。
ダメ押しの3点目がナッツだったことを差し引いても、今日は珍しいくらい完璧な試合展開だった。
夜のスポーツニュースでゴールシーンを2回くらいはリピートしてもらえるだろうか。
うふふ、ボクのファンがまた増えちゃうな。
なんて少し浮かれて嘯けば、君も笑った。それから、ふとボクの手を取った。
「……ジーノ」
囁いた君の唇が、そっと指先に触れ、手の甲に触れた。
それから、そっと瞼を持ち上げて、ボクの顔を見る。
「コッシー……」
どうしよう、ボクの喜びのゲージは振り切れてしまって、もう、いつもみたいな言葉も出てこない。
ねえ、いま、ボクはどんな表情をしている?
君が――珍しくこんな振る舞いをした君が、照れたり恥らったりするより先に笑い出すなんてさ。
だから、言葉の出てこないボクは、笑う君をただ抱きしめた。