「キスしてもい?」
真面目な顔の菊丸に訊かれて、不二は動きを止めた。
3年6組は授業後のHRが、他のクラスよりも早い。だから放課後の部室に一番乗 りするのは、3年6組の二人組だ。
大石から預かった鍵で部室を開け、さっさとレギュラージャージに着替えると、他 愛もない話をしながら、他のメンバーを待つ。
クラスもクラブも同じで、登下校も一緒、週末は不二家で二人だけのお泊り会が恒 例になっている菊丸と不二。それだけいつも一緒にいて、それでもまだ話すことがあ
るのか、と二人の周りの人間は不思議そうに言う。
「厭きないか」
人はそう訊くけれど、菊丸も不二も、二人でいる時間を退屈だと思った事は一度も なかった。
今日もいち早くHRが終った3年6組の二人組は、部室に一番乗りし、レギュラー ジャージに着替えながら、他愛もない話をする。
ふと菊丸が話すの止めた。唐突に黙り込んだ菊丸を、不二は不審げに見上げる。
菊丸の方が不二よりも4センチほど高いため、隣に並んで話していると、少しだけ だが不二は菊丸を見上げるようになる。
菊丸が4センチ高い場所から、不二を見つめる。
滅多に見せない真面目な顔で見つめられて、不二はドキッと心臓が跳ねるのを感じ た。
「キスしてもい?」
唐突に菊丸が訊ねる。菊丸の真剣な眼差しが、不二を射る。普段の子供っぽさが消 えた男らしい菊丸の顔に、不二は動けなくなる。
菊丸の顔が不二に近付いた。
不二がボーッとそれを見つめる。
菊丸の顔が更に近付いた。
不二が唇に菊丸の息が掛かるのを感じて、反射的に目を閉じた。それを見て、菊丸 も目を閉じた。
一瞬後、菊丸と不二の唇が重なる。
ふざけあって頬や額にキスをした事はあったが、口へのキスは初めての二人。唇が 触れた途端、二人は体中の血が沸騰したような気がして、目を開く。
その途端、キスをしている相手と目があった。
唇が触れるだけのキスをしたまま、二人はしばし見つめ合う。それから、再び二人 は目を閉じた。
菊丸に押されるような形で、不二の背が側のロッカーに触れる。そのまま菊丸は ロッカーに両手を付き、不二の体を腕の中に閉じ込めると、更に唇を押し付けた。思
わず不二が開いた唇に、菊丸がそっと舌を挿しいれる 。
「……っん」
不二は体を緊張させた。不二の手が、力なく菊丸の肩を押す。しかし菊丸はびくと もしない。やがて不二の手から力が抜け、添えられているだけになった。
菊丸の舌が不二の口腔を蹂躙する。乱暴な動きで、菊丸は不二に貪るようなキスを する。
初めてのキスにも関わらず、性急に求めてくる菊丸に、不二は恐怖を感じた。でも 拒む気は起こらず、どうしたらいいのか分からずにそっと目を開いた。
「……」
不二の目に飛び込んできたのは、目を閉じてキスをする菊丸の、真っ赤な顔。その 顔を見た不二から、先ほどまで感じていた菊丸への恐怖が消える。不二は菊丸の肩に
置かれていた手を、そっと菊丸の背中に回した。
不二の行動に驚いた菊丸は、唇を離すと目を開ける。真っ赤な顔をした不二が微笑 んでいた。それを見た菊丸が、更に顔を赤くする。
不二はもう一度微笑むと、目を閉じて今度は自分からキスをする。触れるだけのキ スをして直ぐに離れていこうとする不二を、菊丸はぎゅっと抱き締めた。
それから二人は他の部員がくるまで、お互いを抱き締めた。
真っ赤な顔をして―――。