帰り道




誰にも見つからないように自転車をすっとばし、裏門を出て左にカーブを描いた直後。
「あぶなっ!」
思いもかけず目の前に居た人物との衝突を何とか回避する為、咄嗟にハンドルを切る。
崩れた体勢を立て直し、とりあえず相手の無事を確認しようと顔を上げた。
「桃、みっーけ」
「テニス部のみなさーん、副部長が部活サボってますよ〜」
…やっべぇ。
見られたくない人物として5本の指に間違いなく入る二人が、目の前に立っていた。
しかもすっごい笑顔で。

3年生が部活を引退してから1ヵ月。
彼らに顔を合わせる機会がまったくと言っていい程無くなっていた。
それなのに久々に会ったのが、何も今でなくとも良かったはずなのに。
信じていない神様はやっぱり意地悪だ。

「うわ、不二先輩そんなに大きな声出さないで下さいって」
「そう言うって事はホントにサボりなんだ〜」
「何?桃ちん、もしかして?」
「ぃや…その…って、英二先輩、その笑いは何すかっ!」

もちろん英二先輩だけじゃない、不二先輩のこの笑顔が恐い…。

「「デートだろ?!!」」

正に図星なんですが。
それも声を揃えて言わないで欲しい。
でも此処でちょっとでも狼狽えたらダメだ。
相手はこの二人なんだ。
英二先輩の天然とも野性的とも言える感と、不二先輩の鋭い洞察力。青学一の曲者と謳われた俺でも全く太刀打ち出来ないのが、この二人。
しかし、この状況でデートがバレるのは非常にマズイ。
部活をサボった事よりも、こっちの方が重大だ。

「まさか〜、違いますって…」

二人にデートだなんて言ったら、絶対に『一緒に行く』とか『彼女を紹介しろ』とか言いそうだし。

「何だぁ。デートだったらついていこうと思ったのにな」
「残念だねー。折角桃城の彼女を紹介して貰おうと思ったのに」

やっぱりそう来たか!
何か別の話題に変えないと。何か…。何か…。

「…そういえば、英二先輩も不二先輩も、たまには部活に顔出して下さいよ。みんな待ってますから」
「ああ、俺等デートで忙しくさ」
「そうなんだよねー。英二とデートするのに忙しくてさー」

いかにも冗談だとばかりに言って笑い合う二人は、その瞳の裏にいろんなモノを隠してる。

「そ、そうですか…」
「だから、桃に構ってる暇も無いんだよね〜」
「そうそう、デートの邪魔しないでくれる?」

そうだ…。こういう人達だった。
邪魔してるつもりは全く無いというか、引き止められてるのは自分の方だったような。

「じゃ、またな!」
「彼女に宜しくー!」
「いや、だからデートじゃ…」

脱出方法は間違ったかも知れないけど、結果オーライで俺は自転車を思いっきりこいだ。



ああやって冗談だと笑って、隠した秘密を見せようとはしない。
彼等は俺が何も気付いていないと思ってるんだからそれで良い。
それでもその秘密がずっと続いてくれたらイイなんて思える心の広い後輩も居るんだって事は、彼等に対する俺の秘密。

次のカーブを曲がる時、視界の端に小さく見えたのは、さっきとは違う笑顔を持った恋人同士だった。