君を待つ





風の音だったかそれとも自分が立てたシーツの擦れる音だったか。
何かに引かれるように気だるい浮遊感を覚えて瞼を上げた。

きっちりと閉じられたカーテン。
消された常夜灯。
真の闇等見た事はないけれど、自分が知る闇とはこの程度の物なのかも知れない。
視界と同様に不鮮明な思考がそう把握する。

室内の気配と窓硝子一枚に隔たれた外の気配は、今が深夜だと理解するのに充分だった。
眠らなければ。
ほんの数時間前まで、無我夢中になり只管愛しい人と熱を分かち合い、自分と相手の境界線までも無くすように抱き合っていた。
境界線など無くす事など出来やしないと言うのに。増してや其れにどれ程の意味があると言うのか。
欲した相手と自分の区別が無くなったとしても、欲心が無くなる事も無く見えない人を求め続けるしか出来ない。
其れが自分の中に存在するだけの物だとしても。
焦点を定めようと望む事もせず半ば閉じかけていた瞼の隙間から見える闇は、心までも暗然としていく。





『電気消さないの?』
この部屋に英二が初めて泊まりに来た日に、彼がそう言った。
改めてその理由を聞かれた時、闇が与える危機的気分が原因なのだと自分自身がやっと理解した。
『目が覚めた時、何も見えないと嫌だから』
半分は言葉の通り、半分は見えない事によって引き起こる不安を自覚したくないから。
そう言った僕を、英二は『子供みたい』と言って笑って抱き締めてくれた。





彼は気付いているのだろうか。
英二がこのベッドで眠る時、部屋の電気が消されていることを。
特別彼に言う事でも無いし、判ってもうらおう等と押し付けがましい気持ちも無い。
僅かに開いたままの瞼でも闇に慣れ鮮明さを取り戻せば其処に英二が居て、腕を伸ばさずとも其処に英二の体温がある。
彼以外を見る必要も、彼以外を感じる必要も無い。
「えいじ」
声ともため息ともつかない音を唇で形作り、重なった腕の中の身体を感じると、抱えきれないくらいの幸福感に涙が出そうになる。
自分だけではなく、其れを彼とだけ分け合いたい。
言葉にすれば拙いけれど、何度も伝えた「好き」の言葉を彼に。
英二の腕に抱かれそして英二を此の腕に抱いて目を閉じ、その時がやってくる朝を待つ。