仲良し





「仲良いっスね、だって。端から見ても俺等ってラブラブ?」
学校の帰りに家に寄った彼が、部活時に後輩に言われた言葉を思い出して笑う。
其の時は唯、当たり障りの無い話をしながら笑っていたのだが、他の部員に聞こえない様に彼が好きだと耳打ちしたのを後輩に見られていた。
目敏く其れを見ていた後輩は何か面白い内緒話をして居ると思ったのだろう、其れを聞きたいと近寄って来たけれど本当の事など言える筈も無く。
其れを誤魔化そうとした自分達の声と言葉が被り、其の偶然とタイミングに思わず笑う。
見られて居たと言う焦りが在った所為で発した声は大きく、其れが余計に面白い事を隠している様に思えたのだろう後輩に散々に絡まれる結果になったのだ。
面白い話などしていないと何度言っても信じては貰えず、粘る後輩に誤魔化しに誤魔化しを重ね、漸く諦めた後輩が呆れた様に溜息を吐いた。
「……本当に仲良いっスね」
どちらも口を割らない事に業を煮やしたのだろう、呆れた風を装った其の拗ねた姿が可愛くて思わず笑った。
教えてあげたくても、其れは出来ない。
自分達が話していたのは面白い話などでは無く、幸せな言葉だったのだから。
他の人間には意味の無い、けれど自分達にとっては大切な其の言葉を教えたくなかった。
言葉一つに酷い独占欲だとは思えども、本当にそう思うのだから仕方が無い。
元より誰にも秘密な此の恋を知られる訳にもいかないのだから言わないのでは無く、言えない、のが正しい所だったのだが。
其れでも誰にも言えない分薄まる事無く、自分の中に重なって行くのが酷く嬉しかった。
「英二」
仲が良いと称された事で至極機嫌の良い彼が愛しくて、思わず抱き締めれば一瞬驚いた風な態度を見せたけれど、次の瞬間には嬉しそうに背に腕を廻して来る。
腕の中で嬉しそうに笑う彼の姿を見ながら、自分も気付けば笑って居た。
自分達意外に知られてはいけないと思っているからこそ、仲が良いと称された事が凄く嬉しいと感じた彼の気持ちが自分にも良く解る。
まるで自分達の関係が容認された様な感覚、勿論実際はそうでは無い事くらい解っていたけれど唯、本当に嬉しかったのだ。
「…英二」
抱き締めた彼の名を再度呼び、顔を上げた彼の髪を梳く。
指の間を髪が流れる感覚を楽しみながら、部活時に返せなかった言葉を彼に伝えると、先刻迄とは全く違った顔で彼が笑い、彼と居る時は自分もこんな風に幸せな顔をしているのだろうと、そう思った。
「…でも仲良しなだけじゃないよね」
「ラブラブだかんね」
至近距離から彼の瞳を覗き込み唇を触れ合わせ言葉を紡げば、唇を触れ合わせたまま、彼が応えを返して来る。
仲良しの域を超える事が出来る部屋の中で、繰り返し口付けを交わしながら外では出せない気持ちを露にして、笑う。
まるで鏡の様だ、と自分達の間に在る感情を顕著に感じ取って共に居る自分達をそう思う。
嬉しい事も、切ない事も、不安も全部。
同じ様に感じているのが手に取る様に、解る。
其れは単なる思い過ごし等では無く、此の一般には特殊に思われる関係だからこそ、そう感じるのかもしれなかった。
誰かに称される言葉は「仲良し」で充分なのだ。
閉ざされた扉の内側に蓄積されて行く気持ちは、自分達だけが知っていれば其れで良い。
お互い其れを知っているから、こうして共に居る事が出来る。
嬉しい事も、切ない事も、不安も、幸せも全部。
其れらは全部扉の内側に在って、扉の隙間から漏れた物が自分達を「仲良し」に見せるのだ。
そんな事を考えながら触れ合わせた唇を開き、仲良しなだけでは絶対に出来ないキスをして、笑った。