風呂上がり、余りの暑さにパンツ一枚で居間のクーラーの前に寝転がり、お笑い番組を眺めていた。そのうちにうとうとと眠ってしまったらしく、姉貴に蹴られてベットに行けと起こされたときには、喉の奥に僅かな痛みといがらっぽさを感じていた。 別段気にも止めず、というより微かな悪い予感を考えないようにと早々にベットに潜り込んでみたものの、朝に目覚ましより早く身体が不調を訴えて目が醒めた。 頭の奥が痛む。身体が重い。少し動くのでさえ節々がきしんで。 (あー、やっちまったかも) なんとかごろりと寝返りを打って、二段ベットの上部から這いだした。 怠い身体を引きずって居間の救急箱から体温計を探し出す。 脇の下でピピッと無機質な電子音が知らせた自分の体温は、思っていたよりも高かった。 うたごえ 「じゃあ、仕事に行ってくるから、ちゃんと寝てなさいよ」 母さんはそう言って少し笑いながら、いつもの様に仕事へと出かけていった。 自分の部屋、ベットの上部に上がるのは大変だろうと兄ちゃんが床に布団を敷いていってくれたお陰で、いつもと違う視界のなかに寝転がっている。 痛む頭にひんやりとしたアイスノンの冷たさが気持ち良い。 家族が出掛けてしまった家のなかは奇妙な静寂のなかにあった。どこからか聞こえてくるテレビの音、掃除機をかける音、小鳥の鳴き声と誰かの笑い声。 普段ならばどうってことのない、いつもと同じ自分の部屋にいるはずなのに、こういうときは何だか知らない家に一人っきりでいるみたいで、ほんのちょっとだけ心寂しいような気分になるのは何故だろう。 穏やかな日差しのなかで時計に目だけ走らせると、時刻はまだ9時半を少し廻ったばかりだった。 「寝よ」 誰かに言う訳でもないのに声に出して呟き、寝返りをうつ。 まだ倦怠感だらけの身体はすぐに眠りに墜ちていった。 寝苦しさに、何度も目が醒める。 うとうとしては意識が急浮上して覚醒し、かと思えばまたもや眠って。それを何度繰り返しただろう。一向にすっきりしない気分と身体のままで狭間をさまよう。 何度目かに目が覚めた時、ぼんやりと霞む意識の中で何故目が醒めたのかが解らなかった。身体は未だ眠りを欲し、重く動かない。それなのに、意識だけが現実世界に浮かび上がって、必死にそこにしがみつこうとしている。 汗をかいて貼り付いたTシャツと前髪が気持ち悪く、のろのろと身体を起こせば遠慮がちにチャイムが鳴らされ、そういえば夢現でこの音を聴いていたような気がして覚醒したことに思い当たった。 吐く息が熱いのを感じながらタオルケットを身体に巻き付け、一向に怠さの抜けない身体を押して玄関に向かった。 何も言わずにドアを開けると、そこに見慣れた笑顔。少し心配気にはにかんでいるその人は、そんな俺の姿を見て起こしたのは自分の癖に『寝てなきゃ駄目だよ』と笑った。 電子音が計測終了を告げる。 自室、布団の上。彼はお見舞いと言ってアイソトニック飲料とヨーグルトを買ってきてくれた。時計を見れば午後4時。浅い眠りばかり繰り返していたけれど、こんなに時間が過ぎていた事をこの時点で初めて知った。 「まだ熱があるね」 体温計を奪い取るようにしてその数字を読んだ不二が、苦笑に似た表情でその電源を落とした。 にわかに喉の乾きを覚え、不二の持ってきてくれたアイソトニック飲料に手を伸ばすとその手を制止するかのように不二の手が伸び、キャップを捻って開けてから手渡してくれる。良く冷えたそれは、一口呑んだだけで体中に染み込んでいくようだった。 「呑んだら寝なよ?」 「起こしたのは不二のくせに」 「しょうがないよ、英二に開けてもらわなきゃ中に入れないんだから」 「不二も早く帰れよ。風邪移したらヤバいじゃん」 「いいよ、英二の風邪なら」 すばやく動いた不二が俺と口唇を合わせる。 吃驚して後ずさると、まるで悪戯っこのようにぺろりと舌を出してから不二が笑った。 「移ったらどうすんだよ!」 「移したら早く治るっていうじゃん」 「バカ、不二が辛いのは俺が厭なの!」 不意に降ってきた口唇がいつもより冷たくて、それなのに暖かくて。なんだか照れくさくなりタオルケットを被って横になれば、優しい手が髪をくすぐるように掻き揚げた。 そして、もそもそと不二が動く気配の一瞬後、持ち上げられた俺の頭が柔らかくその膝に載せられる。 「膝枕〜。なんてね」 ふふふ、と。嬉しそうにわらう不二を見上げ、それだけで嬉しくなるココロ。優しい指がまた髪を撫で、その感触が心地よく睡魔を呼ぶ。 「英二、眠い?」 「うん……。何で寝ても寝ても眠いんだろう」 「病気のときはね、そういうもんだよ」 「うん……」 とろりと微睡み、目を閉じると、聞き慣れた声が微かなメロディを口ずさんでいた。 遠く、まるで夢の様にそのうたごえを聞きながら、またも眠りに墜ちていく。 「はやく良くなれ。英二」 ちいさい呟きとともに頬に柔らかなものが触れたのは、きっと、……夢じゃない。 |