こっち向いて





不二の家に誰も居なくなる時に泊まりに来る様になってから、もう随分と経つ。
二人で話をして、食事をして。
口付けて肌を重ねる。
其れでも欲しい、触れたいと思う侭に手を伸ばし戸惑い無しに求められる様になったのは此処最近の事で、其れを思えば自分達も変わったと感じる。
けれど完全に慣れてしまったかと思えば其れは違い、手を伸ばせば同じ様に手を伸ばしてくれると知っているからこそ、自分達はお互いに求める事に戸惑いを覚える事が無くなったのだろうと、そう思う。
相手を知りたくて、自分を知って欲しくて色々な話をし、想う気持ちを言葉にして伝えると、不二の気持ちを伝えられた。
真直ぐに伝えれば、真直ぐに返される。
其の当たり前の事を改めて知った気がした。




幾ら長い時間を共に過ごしたとは言えども、其れに満足する事は無く求める気持ちだけが増加の一途を辿る。
まるで飢えているかの様だと感じたけれど、其れは食い潰す様な激しい物では無く、穏やかに緩やかに求める気持ちが此処に在る。
手を伸ばせば臥せられる睫毛、抱き締めれば背に腕が廻される。
求められる侭に差し出す様な仕草、其れでも其処に完全な受け身の姿勢は無く、廻される腕に、呼ぶ声に自分だけが求めている訳では無い事を知る。
自分に向けられる不二の気持ちが、他者に向けられる其れとは全く異質な物だとは解っていて尚、自分の方だけを見て欲しいと思う独占欲をどうする事も出来ない。
勿論、其れは自分だけが感じて居る事では無く不二も同様に感じて居る事も知っている。
其れは言っても考えても仕方の無い事だと頭では解って居るのだけれど、其のどうにもならないもどかしさを払拭する術を探さずにいられない。
何処かに閉じ込めて囲ってしまえたら。
熱が混じり合う様に溶けて一つになれたのなら。
そんな事を何度も考えてみたけれど、余りにも其れは現実離れし過ぎていて、次の瞬間には溜息だけが漏れた。
ましてや自分達は相手に何かを無理強い等したくは無かったし、仮に混ざり合い一つになったとして次の瞬間には姿の見えなくなった相手を想い、けして満足など出来ないだろう事は容易に想像が出来た。
不意に目が覚めてしまった暗がりの中でそんな事を考えながら、闇に紛れ見失ってしまった睡魔を一人じっと待つ。
腕の中には愛しい人。
数時間前まで飽くる事も無く肌を重ね、簡単な後始末をして眠りに付いた。
火照った躯に着衣を纏うのを嫌がり、裸のままで眠ってしまった不二の体温を肌で感じながら眠くも無いのに目を瞑る。
眠っている所為で何時もよりも高い体温、行為の最中とは違った穏やかな其れを心地良く思いながら、小さく息を吐く。
こちらに背を預ける様な格好で眠る不二を後ろから抱き締める様な形で寝台の上に横たわり、何時までも訪れる様子のない眠気を待つ。
……淋しいのかも、しれない。
暗がりの中で一人眠れない事よりも、不二がこっちを向いてくれない事が無性に淋しく感じる。
けれど穏やかな眠りを妨げたくは無くて、ひっそりと抱き締める腕に力を込めて項に鼻先を埋めた。
鼻孔を擽る不二の匂い、其れが淋しさを余計に掻き立てる様な気がして、閉じた目を更にきつく瞑る。
もっと自分本意になれたのなら、こんな風に淋しさを感じる事は無いのだろうか。
そんな出来もしない事を思い、少しだけ抱き締めている腕に力を込めて大きく息を吸い込んだ。
唯、こっちを向いて欲しいだけなのに。
改めて自分の独占欲の強さを痛感しながらゆっくりと息を吐き、未だ訪れる様子の見えない睡魔を待った。