傍にいたい







何処まで近付けるのだろう、不意にそんな事を思えば触れたい衝動を抑えきれずに手を伸ばした。
頬に指を滑らせて、其処に唇を寄せてみる。
ただ隣に座って居る時よりも格段に距離は近くなったけれど、其れでは物足りなくて寝台に背を預け床に座っている彼の足の間に、無理矢理身体を押し込んだ。
後ろから抱き締められている様な格好になった事で更に近くなった距離に少しだけ満足して、身体全体を預ける様にして彼に凭れ大きく息を吐けば、其の無理矢理の行動に驚いたのだろう彼が次の瞬間に爆笑した。
「なしたの、不二」
「……別に」
凭れ掛かって居る所為で、彼が笑う度に振動が伝わる。
無理矢理過ぎる、と笑う彼は既に腰に手を廻し離すつもりは無い様で、其の緩やかな拘束に思わず笑う。
背中で感じる彼の体温、何か言葉を発する度に伝わる振動。
其れらを愛しく感じたけれど、彼の顔が見えない事が不満で彼の腕で施された緩い拘束の中で身を捩り、向き合う様に体勢を入れ替えた。
無言のまま向き直った自分の様子を面白そうに眺める彼も又、何も言わなかったけれど、こちらを眺める彼の目が細められるのを見付け、何だか其れが異常に恥ずかしくて彼の肩口に額を押し当てた。
容認されている。
其の嬉しさと気恥ずかしさに、どう動いて良いのか解らなくって下ろしたままになって居た腕を彼の背に廻してみると、其のぎこちなさを笑われた。
肩口に額を押し当てた事に因って猫背になった身体は、先刻よりも密着を少なくし、其れを今度は不満に感じる。
けれど体勢を入れ替えても彼の腕は腰に廻され、其れが酷く幸せに思えた。
彼の足を跨ぐ様な形で立てた膝は、彼の背後に在る寝台の所為で抱き合う自分達の格好をぎこちない物にしている。
其れでも此処から動きたく無くて、膝立てた足を引き寄せ彼の胸に自分の胸をくっ付ける様な格好で身体を密着させれば、先刻不満に感じた失った体温を感じて思わず笑った。
僅かに体勢を変えた事で足の居心地の悪さは解消されたけれど、撓らせた背が微かに痛み、其れを労る様に腰と背に廻され自分の体重を支える彼の腕に安堵する。
「えいじー」
「なにー?」
「…だいすき」
間の抜けた声で彼の名を呼べば、同じ様に間の抜けた声で返事が返って来て思わず笑う。
直ぐ傍に在る彼の耳に直接言葉を吹き込むと、同じ言葉を返されて抱き締められる。
其れが擽ぐったくて彼の耳を噛んで息をそっと吹き込めば、耳が弱い彼が弾けた様に笑い出した。
笑いながら身を捩る彼を抱き締め拘束しながら軟骨に舌を這わせ甘噛みし、先刻と同じ言葉と共に細く息を吹き込めば、耐えられないと言った風に自分を抱え寝台に乗り上げる。
寝台の上で身体が大きく弾んだ刹那思わず閉じてしまった目蓋を持ち上げれば、狡い目をした彼がこちらを見下ろしており、しまったと感じた瞬間には「かわいー」と連呼されながら脇腹を擽ぐられて死ぬ程笑った。
彼からの制裁を受けて皺だらけになった寝台の上で彼に向かって腕を伸ばせば、自分の身体の上に体重を掛けない様に身体を重ね抱き締められる。
「…体重、掛けて」
「……重いよ?」
「……イイよ」
遠慮がちに体を重ねる彼の重さを身体中で受け止め、其の息も出来ない圧迫感に幸せだと感じる。
けれど次の瞬間には其の重さが軽減され、目蓋を持ち上げた刹那口付けられて、開きかけた目蓋を再度閉じた。
「英二」
「何?」
「…もっと傍に居たい」
「……俺も」
触れるだけの口付けを数度繰り返し、髪を梳きながらこちらを覗き込む彼の手を取って乱れて捲れた服の中に差し入れる。
彼の手が肌に触れた瞬間に小さく身体が跳ね、一瞬息が詰まった。
其れを見逃さなかった彼が再度口付け、肌に触れた手が彼の意思で動き出す。
彼の指が肌の上を滑り、其れに連動して乱れて行く呼吸と霞む思考に流されながら、何処まで近付けるかでは無く単に傍に居たかっただけだと言う事に気が付いた。
身体中を触れ合わせて、心を重ねて。
他の誰よりも近い場所で一緒に居たい。
唯、其れだけだったと言う事に気が付いた。
抱き合う理由は各々多様に在るだろうけれど、少なくとも自分達は愛しくて愛しくて、もっとずっと傍に居たくて肌を重ね抱き合うのだ。
着衣を脱がされて素肌で直に彼の体温を感じながら自分を組み敷く彼の背に腕を廻し、此れからもっと近くなる距離を思い目を閉じた。