タバコの煙 |
学校帰りになんとなく離れ難く感じてファーストフード店に行くようになったのは、2年生の頃からだろうか。 秘密のデートと言うには余りにも開放的で、本当に離れられなくなる事の無い空気があるのがいい。 時間が許す限りはその場に留まって居られ、何も知らずに見る人にとってみても極々ありふれた風景として誰の意識にも残らないだろう。 先に注文を終え飲み物とパイが乗ったトレーを持って、店内を見渡した。 夕方のこの時間は、制服姿の数人のグループや、塾へ行く前の簡単な食事をする小学生達、それに恋人同士らしい雰囲気の男女で席が埋まっていく。 窓とは反対の壁側に設けられた喫煙席の中に空席を見つけた。 ガラス一枚で簡素に仕切られた其処を敢えて選ぶ。 テーブルの上にトレーを置き隣の席を盗み見ると、会社員らしい若い男性が店内のざわめきを気にする様子もなくノートパソコンを広げている。 そしてその傍らには、未だ使われていない灰皿が飲み物と共にトレーに乗せられいた。 椅子に座りファーストフード独特な苦味のするアイスティーを一口飲んだところで、大好きなポテトフライを一本銜えた英二がやって来た。 「またポテト?」 「不二はまたリンゴ?」 「アップルパイと言え」 「でもリンゴでしょ?」 決して甘くなど無い会話。 膝がぶつかってしまうくらい小さいテーブルを一つ挟んだだけの距離も、決して近い訳でも無い。 それでも楽しくて、時折見せる恋人としての瞳に自然と笑みが零れた。 帰りたくないとか帰したくないとか、離れる事が無性に辛くなる時、それを誤魔化すのに此処は丁度良い。 カチッ。 隣の席から聞こえたライターの音。 一拍置いて流れて来る白い副流煙。 まだ中学生の自分達は煙草なんて吸わなし、増して煙草が好きな訳じゃない。 けれど無関係な煙草の煙は、他人には特別に見えない二人の関係を、二人だけの秘密の時間にしてくれるかの様な匂いがした。 誰もが介入できる開放的な店内で、喧騒に紛れて僕達だけの秘密の空気が存在する。 |