中空に、輝くは、銀の月。







届く声






その月はまるで鏡のように輝いて煌々と辺りを照らし、部屋の隅まで届く。
灯りをつけないままの部屋の中は、月明りにぼんやりと浮んで形をはっきりと捕えられない様々なもので満たされていた。
いつもと違う、奇妙な空間。
抱き合った後の甘い余韻と気怠さに支配されながら、隣で寝息を立てる恋人の赤い癖の有る髪の毛を指に絡め弄ぶ。
つい先程、息も出来ない熱を放出し合ったことを思い出し、口元が緩んだ。
満たされている。
心も、身体も。
どうしてこんなに好きになってしまったのか解らないけれど、今の自分には彼よりも大事なものは無い。
そう感じている自分は、何と幸せなのだろう。きっと、彼が居るだけで世界で一番幸せな気持ちになれるに違いない。
くるくると髪を指に巻き付け、さらりと逃げるその感触を味わう。
『好き』の感情だけで全てがこんなにも意味を持つものになることに気付いてからは、全てが愛おしくなった。彼を形成する一部に自分が成り得る事の喜びに、産まれてきた事に感謝出来た。
胸を刺す感情。その、痛みすらも幸せで。
英二の事を考えるだけで苦しい程に複雑な感情が湧き上がる。
そして、自覚する。
こんなにも好きだということを。
薄い影を落とす月明りに照らされる彼の寝顔を見詰め、微笑している自分に気付く。普段であれば決して見せない微笑み方、普段であれば決して浮びはしない微笑み。今、自分がどんな顔をしているのか鏡を見なくても解る程に、満ち足りて幸せで。それでいて、心の何処かがざわめくような、不思議。

恋。

全ては彼が居るから。その一言に尽きる。

飽きる事無く彼の髪を指に絡めとる動作を繰り返しながら、不意に沸き立つ感情のままにその柔らかな頬に口唇を寄せる。
そっと触れるだけの、……キス。
「ん……」
身じろいだ英二の瞳がうっすらと開いた。
「不二……?」
呼ばれ、その声に胸が苦しくなる。
幸せで。幸せで。
彼が僕の名を呼ぶ。彼が僕に話し掛ける。
それだけで、こんなにも幸せで。
「ごめん、起こしちゃった?」
笑いかけ、もう一度、今度は口唇に口唇を重ねた。
英二。
君の声だけが、僕を、僕の感覚の総てを覚醒させる。






中空に、輝くは、銀の月。



あの月の光よりも優しく。





君の声は




胸に届く。